火山活動と生命史

## 火山は生命を壊すだけの現象ではない 火山活動は、地球内部の物質とエネルギーを地表へ運ぶ主要な過程の一つである。噴火によって溶岩や火山灰が供給されるだけでなく、二酸化炭素、二酸化硫黄、水蒸気などの気体も大気や海洋へ移動する。そのため火山活動は、気候、大気組成、海洋化学、地形、土壌形成などを通じて生命の環境を変えてきた。 生命史との関係で特に注目されるのは、通常の火山噴火とは規模や継続時間の異なる大規模な火成活動である。広大な地域に大量の溶岩が繰り返し噴出する現象は、いくつかの大量絶滅の時期と近接している。 ただし、「大噴火が起きたから大量絶滅が起きた」と単純に結論づけることはできない。火山活動から生態系への影響までには、大気、海洋、炭素循環、生物活動など多くの過程が介在する。噴火の時期と絶滅の時期が一致することは重要な証拠だが、それだけでは因果関係を完全には証明できない。 火山活動と生命史を理解するには、火山を単独の破壊要因ではなく、地球システム全体を揺さぶる作用として見る必要がある。 ## 噴火は異なる時間尺度で気候を変える 火山が気候へ与える影響は、一方向ではない。 大規模な爆発的噴火では、二酸化硫黄から生じる硫酸エアロゾルが上空に広がり、太陽光の一部を反射する。その結果、数年程度の時間尺度では地表が寒冷化することがある。現代の火山噴火でも観測されている現象であり、火山活動が短期的な寒冷化を引き起こしうることは比較的よく理解されている。 一方、長期間にわたって大量のマグマが噴出する場合には、二酸化炭素の供給が重要になる。二酸化炭素は長期的な温室効果をもつため、放出量と放出速度が十分に大きければ温暖化を促進しうる。 さらに、マグマが石炭や有機物に富む堆積層へ入り込むと、加熱された地層から二酸化炭素やメタンなどが放出される可能性がある。したがって地球環境への影響は、マグマそのものから放出された気体だけで決まるとは限らない。 同じ「大規模火山活動」であっても、硫黄を多く放出する噴火と炭素を多く放出する活動では影響が異なる。噴火が短期間に集中したのか、断続的に長く続いたのかによっても、生態系が受ける圧力は変わる。 ## 大気の変化は海へ伝わる 火山活動による環境変化は大気だけで終わらない。大気と海洋は炭素や熱を交換しているため、大気組成と気温の変化は海洋環境へ波及する。 ### 温暖化と海洋の酸素不足 海水は一般に、温度が上昇すると保持できる酸素量が減少する。また温暖化によって海洋循環が変化すれば、深海へ酸素が供給されにくくなる可能性もある。 さらに、陸上から海へ流れ込む栄養塩が増えれば、海洋表層の生物生産が活発になり、その有機物を微生物が分解する過程で酸素が消費される。こうした複数の過程が重なれば、海底付近を中心に低酸素あるいは無酸素の環境が広がりうる。 地質時代には、海洋の広い範囲で酸素の乏しい状態が発達したと考えられる時期が複数知られている。大規模火山活動がその背景要因として検討される場合もあるが、海洋循環、海水準、生物生産なども関係するため、原因を火山活動だけに還元することは難しい。 ### 海洋酸性化という圧力 大気中の二酸化炭素が増えると、その一部は海へ溶け込み、海水の炭酸系を変化させる。急速な二酸化炭素増加が起きれば、海洋酸性化が進み、炭酸カルシウムの殻や骨格を形成する生物に不利な条件をつくる可能性がある。 ただし、生物群によって耐性は異なるうえ、海水の化学状態も時代ごとに同じではない。したがって、過去の絶滅でどの程度海洋酸性化が寄与したかは、個々の事例について検討する必要がある。 ## 大量絶滅と巨大火成活動 火山活動と生命史の関係を考えるうえで重要なのが、大量絶滅と巨大火成活動の時間的な対応である。 約2億5200万年前のペルム紀末には、海洋生物を中心に生物多様性が大きく低下した。この時期には現在のシベリア地域で大規模な火成活動が起きており、シベリア・トラップと呼ばれる巨大な火成岩地域が形成された。 ペルム紀末の絶滅については、この火成活動に伴う温室効果ガスの放出を起点として、急速な温暖化、海洋の酸素不足、海洋化学の変化などが連鎖したという説明が有力である。ただし、各過程の強さや順序、どの環境変化がどの生物群に決定的だったのかについては研究が続いている。 約2億100万年前の三畳紀末にも大規模な絶滅が起こり、その時期は中央大西洋マグマ区と呼ばれる巨大火成活動と近い。パンゲア大陸が分裂し始め、大西洋が形成されていく地殻変動のなかで大量のマグマが活動した。ここでも二酸化炭素の急増と気候変動が絶滅に関与した可能性が高いと考えられている。 一方、約6600万年前の白亜紀末では状況が異なる。現在のインドにデカン・トラップを形成した大規模火山活動が進行していた一方、巨大隕石衝突を示す強い証拠も存在する。白亜紀末大量絶滅の急激な生態系崩壊では隕石衝突が重要な役割を果たしたと考えられているが、デカン火山活動による長期的な環境変化が生態系の状態にどの程度影響したかについては議論が続いている。 この違いは重要である。大規模火山活動と大量絶滅が近接していても、その関係はすべての時代で同一とは限らない。 ## 火山活動は新しい生息環境もつくる 火山と生命の関係には、破壊とは反対の側面もある。 溶岩は既存の生態系を覆うが、冷えて固まれば新しい陸地になる。火山島が海面上に現れれば、当初ほとんど生物のいない場所へ微生物、植物、昆虫、鳥などが移入し、生態系が形成されていく。 火山岩は風化するとさまざまな元素を環境へ供給する。火山灰も長期的には土壌形成に関与し、条件によっては生物生産を支える基盤となる。 海底では火山活動と熱水循環が結びつき、化学物質に富む熱水噴出域が形成される。そこでは太陽光ではなく化学反応からエネルギーを得る微生物が一次生産を担い、それを基盤とした独特の生態系が成立する。 したがって火山活動は、生息地を消失させる作用であると同時に、地質学的な時間尺度では新しい生息地を生み出す作用でもある。 ## 生命も火山がつくった環境を変え返す 相互作用は火山から生命への一方向ではない。 火山活動によって大気中へ供給された二酸化炭素の一部は、岩石の化学風化や海洋への溶解を通じて長期的に除去される。陸上植物が存在する地球では、根による岩石の破砕、土壌中の二酸化炭素濃度の上昇、有機酸の作用などによって風化が促進されうる。 海洋では、生物が炭素を有機物や炭酸塩として取り込み、その一部が海底へ埋没する。こうした生物活動も長期的な炭素循環の一部を構成する。 つまり火山が炭素を地球内部から地表へ運び、風化、海洋、生物活動がその一部を別の貯蔵庫へ移していく。生命が存在することで、この炭素循環の速度や経路そのものが変化してきた。 しかし生命が地球環境を常に安定化させるとは限らない。植物の拡大による風化促進が大気中二酸化炭素の減少へつながる可能性がある一方、生物生産の増加が海洋深部での酸素消費を増やす場合もある。生命活動には環境変化を弱める作用と強める作用の両方がありうる。 ## 絶滅か多様化かは火山だけでは決まらない 生命史を見ると、大規模火山活動が起こったすべての時代に同程度の大量絶滅が起きたわけではない。この事実は、噴出したマグマの総量だけでは生物への影響を説明できないことを示している。 重要なのは、噴火の速度、継続時間、放出される気体の種類、マグマが通過する地層、大陸配置、海洋循環、当時の気候、さらに噴火以前の生態系の状態である。 すでに高温や低酸素などの圧力を受けている生態系へ新たな環境変化が加われば、大きな絶滅へ進む可能性がある。一方、変化が比較的緩やかであれば、生物が分布域を移したり、世代を重ねながら適応したりする余地が生まれる場合もある。 絶滅後には、生き残った系統が利用できる生態的地位が変化し、その後の多様化へつながることがある。しかし火山活動が新しい生物を生み出すことを目的として絶滅を引き起こすわけではない。多様化は、環境変化を生き残った系統がその後の条件のもとで進化した結果である。 ## 火山と生命は長い物質循環のなかで結ばれている 火山活動は、地球内部と表層環境をつなぐ巨大な物質循環の一部である。そこから放出された炭素や硫黄は大気と海洋を変え、その変化に生命が応答する。生命はさらに風化、土壌形成、炭素固定、有機物の埋没などを通じて地球表層を変え返す。 この相互作用は、単純な「火山が噴火して生物が絶滅した」という図式では捉えきれない。火山活動が引き金となった可能性が高い大量絶滅でも、実際に生物へ作用したのは温度変化、酸素不足、酸性化など複数の環境変化だったと考えられる。 地球生命史における火山の重要性は、生命を繰り返し破壊したことだけにあるのではない。地球内部から物質を供給し、大気と海洋の状態を変え、新しい陸地や化学環境をつくり、そのたびに生命との新たな相互作用を生み出してきたことにある。 生命の歴史と地球の歴史は別々に進んだのではない。火山活動を含む地球内部の変動と、生物がつくり変える地球表層は、異なる時間尺度で影響し合いながら現在の地球へつながっている。