種分化はどう起きるのか

## 種分化とは、ひとつの系統が分かれていくこと 地球上には非常に多くの生物がいる。それらは最初から現在の姿で存在していたわけではない。過去の生物集団から枝分かれが繰り返され、異なる系統が生まれてきた。その重要な過程が「種分化」である。 種分化とは、簡単にいえば、もともと同じ集団に属していた生物が分かれ、やがて互いに独立した進化を続けるようになる過程である。 ただし、ある瞬間に突然「新しい種」が完成するとは限らない。実際には、集団間の遺伝的な違いが少しずつ蓄積し、交配や遺伝子の交換が起こりにくくなっていく連続的な過程として理解したほうがよい。 また、種分化は生物が「より高度になる」現象でもない。進化には、あらかじめ決められた目的地や頂点があるわけではない。環境や生物どうしの関係、偶然の変異、集団の歴史などによって系統が分岐していった結果として、生物多様性が形成されてきた。 ## 集団が分かれることが出発点になる 同じ種の個体どうしが頻繁に交配している集団では、遺伝子が集団全体に広がる。そのため、一部の個体に生じた遺伝的な違いも、世代を重ねるうちに集団内へ混ざっていくことがある。 ところが、集団の間で遺伝子の交換が少なくなると事情が変わる。それぞれの集団で突然変異、自然選択、遺伝的浮動などが独立して作用し始めるからである。 たとえば、大きな生息域を持つ生物の集団が、山脈、海峡、河川、氷床などによって二つに分断されたとする。 最初の段階では、両集団に大きな違いがないかもしれない。しかし長い時間が経過すると、それぞれ異なる変異が蓄積する。気候や食物、捕食者などが違えば、自然選択によって有利になる特徴も異なる可能性がある。 こうして集団間の違いが増えていく。 ## 地理的隔離は種分化の重要なきっかけになる 地理的な障壁によって集団が分かれる種分化は、異所的種分化と呼ばれる。 島の形成は、その分かりやすい例である。 大陸にいた生物の一部が島へ移動すると、その集団は元の集団からほぼ隔離される場合がある。島と大陸では食物、生息場所、競争相手、捕食者などが異なることも多い。 その状態が長く続けば、それぞれの集団は別々に進化していく。 島だけでなく、大陸そのものの分裂も生命史に大きな影響を与えてきた。プレート運動によって陸地や海洋の配置が変化すると、生物集団が分断されたり、反対に、それまで離れていた地域が接続されたりする。 つまり種分化は、生物内部の変化だけで説明できる現象ではない。大陸移動、海水準変動、造山運動、気候変動といった地球環境の歴史とも深く結び付いている。 ## 隔離されなくても集団は分かれることがある 種分化には必ず地理的な障壁が必要というわけではない。 同じ地域に暮らしていても、生息場所や利用する食物、繁殖時期などが異なれば、集団間の交配が減少する可能性がある。 たとえば、同じ地域に暮らす昆虫でも、ある集団は植物Aを利用し、別の集団は植物Bを利用するようになるかもしれない。交尾や産卵がそれぞれの植物上で行われるなら、同じ場所に生息していても両集団の接触は少なくなる。 繁殖する季節がずれる場合もある。春に繁殖する集団と夏に繁殖する集団では、同じ地域にいても交配の機会が減る。 こうした生態的な違いが遺伝的な違いと結び付けば、集団間の分化が進む可能性がある。 植物では、染色体数の変化によって比較的短期間に生殖的な隔離が生じる場合も知られている。したがって、種分化に必要な時間や仕組みは、生物群によって大きく異なる。 ## 「交配できなくなる」までにはいくつもの段階がある 生物学では、種を「互いに交配して繁殖可能な子孫を残せる集団」と捉える考え方がよく用いられる。 この考え方では、種分化の重要な段階は生殖隔離の成立である。 生殖隔離にはさまざまな仕組みがある。 まず、そもそも交配に至らなくなる場合がある。繁殖時期が違う、求愛行動が違う、生殖器官の構造が合わないといった違いである。 交配そのものは可能でも、その後に障壁が生じることもある。受精が成立しにくかったり、雑種が成長できなかったり、雑種の繁殖能力が低かったりする場合である。 ただし、現実の生物では種の境界が完全に明瞭とは限らない。別種と分類される集団どうしでも、一定の遺伝子交換が起きる例がある。 そのため「種とは何か」については複数の考え方があり、生殖隔離だけですべての生物を分類できるわけではない。化石生物や無性生殖を行う生物では、別の基準を用いる必要がある。 ## 自然選択だけが種を分けるわけではない 種分化というと、環境への適応によって新しい種が生まれるという説明がされることがある。自然選択は確かに重要だが、それだけが進化を動かしているわけではない。 突然変異によって新しい遺伝的変異が生じ、遺伝的浮動によって偶然に遺伝子の頻度が変化する。特に個体数の少ない集団では、偶然の影響が大きくなることがある。 たとえば少数の個体が新しい島へ移住した場合、その集団が持っている遺伝的変異は、もとの大きな集団とは異なる可能性がある。そこから世代を重ねれば、偶然による違いと自然選択による違いの両方が蓄積していく。 種分化は、一つの原因によって進む単純な現象ではない。地理的隔離、自然選択、遺伝的浮動、突然変異、性選択などが、状況に応じて組み合わさることで進行する。 ## 新しい環境は系統の枝分かれを促すことがある 生命史では、新しい生息環境が利用可能になったあと、一つの祖先的な系統から多数の系統が比較的短い地質学的時間のうちに分岐することがある。 このような現象は適応放散と呼ばれる。 島々、湖、山地など、複数の異なる環境が近接して存在する場所では、それぞれ異なる食物や生息場所を利用する集団が生じる可能性がある。 ただし、適応放散を「生物が急速に進歩した」と考えるのは適切ではない。 起きているのは、利用できる生態的条件に応じて系統が枝分かれする現象である。ある系統が別の系統より「高等」になったことを意味するわけではない。 環境が変われば、かつて繁栄した系統が絶滅し、それまで目立たなかった系統が多様化することもある。 ## 大量絶滅の後にも種分化は続く 地球生命史では、大量絶滅によって多数の系統が失われた時期が繰り返し存在した。 絶滅のあとには、それまで生物が利用していた生態的な空間の一部が空く。生き残った系統は、その後の環境条件のもとで再び分化し、新しい生態系を形成していくことがある。 白亜紀末の大量絶滅後に哺乳類の多様化が進んだことは、その代表的な例の一つである。ただし、哺乳類そのものは大量絶滅後に突然出現したわけではない。恐竜が繁栄していた中生代にも、すでに多様な哺乳類が存在していた。 絶滅によって「進化が次の段階へ進んだ」のではない。 環境条件、生態的競争、偶然の生存などによって生命史の条件が変わり、その条件のもとで新たな分岐が積み重なったのである。 ## 種分化と絶滅が生命の系統樹をつくる 生命の歴史を一本の階段として描くことはできない。 実際の生命史は、枝分かれを続ける巨大な系統樹に近い。 一つの系統から複数の系統が分かれ、その一部がさらに分岐する。一方で、多くの枝は途中で絶滅する。現在生きている生物は、その膨大な枝分かれの中で現代まで存続した系統である。 人類も例外ではない。 人類が進化の頂点として最後に登場するよう設計されていたわけではなく、霊長類、哺乳類、脊椎動物、動物へとさかのぼる長い分岐の一枝にすぎない。 種分化とは、この生命の系統樹に新しい枝が生まれていく過程である。 そして、その枝分かれを左右してきたのは生物の遺伝的変化だけではない。大陸の移動、気候変動、海洋環境の変化、生物どうしの競争や捕食、そして偶然の出来事までが関係してきた。 地球生命史における多様性とは、生命が一つの完成形へ向かって進歩した結果ではない。変化し続ける地球上で、集団が分かれ、異なる歴史を歩み、その一部が生き残ってきた結果なのである。