海はいつどのように形成されたのか
## 海は地球誕生と同時に存在したわけではない
現在の地球表面のおよそ7割は海に覆われている。生命史を考えるうえでも、海は単なる背景ではない。最古級の生命の痕跡は海洋環境と深く結びついており、その後の進化や物質循環も長く海を舞台としてきた。
しかし、約46億年前に地球が形成された直後から、現在のような海が存在していたわけではない。
地球形成の初期には、小天体の衝突や内部の加熱によって地表は非常に高温だったと考えられている。地球内部には放射性元素の崩壊による熱もあり、形成過程そのものでも大きな熱が生じた。こうした環境では、水が存在していても、地表に液体の海として安定して存在することは難しい。
海が成立するためには、まず地表が十分に冷え、水蒸気が凝結できる条件が整う必要があった。
では、その水はどこから来たのだろうか。
## 地球の水はどこから来たのか
海の起源を考えるとき、「地球内部から出てきた水」と「宇宙から運ばれてきた水」という二つの供給経路が重要になる。
これはどちらか一方だけが正しいという意味ではない。現在では、複数の供給源が地球の水を形づくった可能性が考えられている。
### 地球内部から放出された水
地球をつくった物質には、水そのものや、水を構成する水素・酸素を含む鉱物が含まれていたと考えられている。
若い地球では内部が高温になり、火山活動も非常に活発だった。マグマに含まれていた水や二酸化炭素などの揮発性成分は、火山ガスとして地表へ放出された。
こうした「脱ガス」は、初期大気を形成するとともに、水蒸気を地球表面付近へ供給する重要な過程だったと考えられている。
現在でも火山ガスには水蒸気が含まれている。したがって、地球内部から水が放出される仕組みそのものは観測可能な現象である。ただし、初期地球でどれほどの水がこの経路によって供給されたのかを直接測定することはできない。
### 小惑星などによる水の供給
もう一つの重要な候補が、地球形成期に衝突した小天体である。
太陽系には、水や水を含む鉱物を持つ小惑星が存在する。一部の隕石に含まれる水素の同位体比が地球の水と比較的よく似ていることなどから、水を多く含む小惑星型の天体が地球の水の供給に寄与した可能性が有力視されている。
彗星も水を大量に含むため、かつては海水の主要な供給源としてしばしば挙げられた。しかし、彗星によって水の同位体組成は異なり、すべてが地球の海水と一致するわけではない。
そのため、「海の水は彗星が運んできた」と単純に説明することはできない。
現在の研究では、地球を形成した物質そのもの、小惑星などによる追加供給、地球内部からの脱ガスなどが組み合わさったと考える方が適切である。ただし、それぞれの寄与率にはまだ議論がある。
## 地球が冷えると雨が降り始めた
海の形成に決定的だったのは、水の供給だけではなく地表の冷却だった。
初期の地球では、大気中に大量の水蒸気が存在していた可能性がある。しかし地表温度が高ければ、その水は液体として長期間とどまれない。
地球が徐々に冷えると、水蒸気が凝結して液体の水となる条件が整っていった。
雨として地表に降った水は低地へ集まり、湖や海の原型を形成したと考えられる。
ただし、「ある日突然、全球規模の雨が降り始め、その雨が海になった」という単純な出来事ではなかっただろう。地表温度は火山活動や天体衝突によって変動し、水が蒸発したり凝結したりする過程が繰り返された可能性がある。
さらに、地球形成後しばらくは大規模な天体衝突が続いた。巨大衝突が起これば海の一部、場合によっては非常に大量の水が蒸発するほど地表が加熱された可能性もある。
したがって、最初期の海は現在の海のように安定した存在ではなかったと考えられる。
## 海は少なくとも40億年以上前には存在した可能性が高い
では、液体の海はいつまでさかのぼるのだろうか。
初期地球の岩石はプレート運動や侵食、変成作用によってほとんど失われているため、直接的な証拠は限られている。そのため、研究者は非常に古い鉱物などを手掛かりとして当時の環境を推定している。
重要な証拠の一つが、約44億年前までさかのぼる古いジルコンという鉱物である。
ジルコンに含まれる酸素同位体などの分析から、非常に古い時代の地球表面付近ですでに液体の水と岩石が相互作用していた可能性が示されている。
これは「44億年前に現在と同じ広大な海が存在していた」と直接証明するものではない。しかし、地球形成からそれほど長くない時期に、少なくとも液体の水が存在できるほど冷えた環境があったことを示す有力な証拠である。
地球は約46億年前に形成されたため、地質学的には驚くほど早い段階で液体の水が存在していた可能性になる。
## 最初の海は現在の海とは大きく異なっていた
初期の海を現在の青い海と同じものとして想像するのは適切ではない。
まず、大気の組成が大きく異なっていた。
初期地球の大気には現在のような大量の酸素は存在しなかった。火山活動によって放出された水蒸気、二酸化炭素、窒素などが大気の主要成分だったと考えられているが、時代ごとの正確な組成には不確実性がある。
海水の化学組成も現在とは異なっていた可能性が高い。
雨水は岩石を溶かし、河川や地下水を通じてさまざまな元素を海へ運ぶ。さらに海底では、海水と高温の岩石が反応する熱水活動が起こる。
こうした作用によって、海水の塩分や元素組成は長い時間をかけて変化してきた。
「海ができた瞬間から現在と同じ塩辛い海だった」というわけではない。
## 海は生命誕生の条件をどのように変えたのか
液体の海が成立したことは、後の生命史にとって重大な意味を持つ。
水は多くの物質を溶かし、化学反応を進める媒体となる。また海には、海岸、浅海、海底、熱水活動域など、温度や化学条件の異なる多様な環境が生まれる。
生命起源研究では、海底熱水系、浅い水域、干満によって乾燥と湿潤を繰り返す場所など、さまざまな環境が生命誕生の場として検討されている。
ただし、**生命が実際にどの環境で誕生したのかは分かっていない。**
海が存在していたことと、海のどこかで生命が誕生したことは別の問題である。
実験によって、生命に関係する有機分子が非生物的な化学反応から形成されうることは示されている。また、海底熱水系などでは生命に利用可能な化学エネルギーが供給されることも観測されている。
一方で、無機物から最初の自己複製可能な生命システムがどのように成立したのか、その完全な過程はまだ再現されていない。
したがって、
- 初期地球に液体の水が比較的早く存在したことには地質学的証拠がある
- 海や熱水環境で生命に必要な化学反応が起こりうることには実験・観測による根拠がある
- 生命が実際にどこで、どのような経路で誕生したのかは未解明である
という三つを区別する必要がある。
## 海は一度できて完成したものではない
海の形成は、地球史の最初期に一度だけ起きた出来事ではない。
地球内部と表面の間では、その後も水が循環し続けている。
海水は海洋プレートとともに地球内部へ運ばれ、一部はマントルへ取り込まれる。一方、火山活動によって内部の水が再び地表へ放出される。
さらに、大陸の配置や海盆の形はプレートテクトニクスによって変化するため、海の面積や深さ、海流も地質時代を通じて変化してきた。
つまり、現在の太平洋や大西洋が40億年前からそのまま存在していたわけではない。
海という液体水の巨大な貯蔵庫は非常に古いが、個々の海洋は地球内部の活動によって生まれ、広がり、縮小し、ときには消滅してきた。
## 海の誕生は「生命の舞台」が整う大きな転換だった
地球形成直後の高温状態から冷却が進み、水蒸気が凝結し、少なくとも40億年以上前には地表に液体の水が存在していた可能性が高い。
その水の起源は一つに決められているわけではない。地球を形成した物質に含まれていた水、内部からの脱ガス、小惑星などによる外部からの供給が組み合わさった可能性が考えられている。
さらに、最初の海がいつ全球的な規模に達したのか、初期海洋の量や化学組成がどのようなものだったのかには、なお不確実な部分が残る。
それでも、液体の水が地球史の非常に早い段階で存在していたことは重要である。
その海では岩石と水が反応し、元素が循環し、海底では熱水活動が起こった。やがてそこに生命が存在するようになり、生命活動そのものが海や大気の化学組成を変えていくことになる。
海の形成は、単に地球表面に水がたまった出来事ではない。
それは、岩石だけだった惑星が、水・大気・地殻が相互作用する地球システムへと変化し、その後の生命史が展開できる環境が整っていく過程の一部だったのである。