ジュラ紀の生態系

## 大量絶滅のあとに広がった新しい生態系 ジュラ紀の生態系を理解するには、その直前に起きた変化から見る必要がある。三畳紀の終わりには大規模な絶滅が起こり、海でも陸でも多くの生物群が打撃を受けた。その原因については、大西洋中央部マグマ活動域に伴う大規模火山活動が、二酸化炭素の増加や急激な温暖化、海洋環境の変化を引き起こしたことが重要だったと考えられている。ただし、生物群ごとの絶滅過程や複数の環境要因がどのように作用したかには、なお議論が残る。 この絶滅によって生命が単純に「リセット」されたわけではない。生き残った系統が、それまで他の生物が占めていた生態的地位へ進出できる条件が生まれた。その代表が恐竜である。 恐竜そのものは三畳紀にすでに出現していたが、ジュラ紀には大型植物食恐竜や大型肉食恐竜を含む多様な系統が広がり、陸上脊椎動物の生態系で大きな存在感を持つようになった。ジュラ紀とは、恐竜が突然現れた時代ではなく、大量絶滅を越えて生き残った系統が、新しい環境のもとで生態系を組み替えていった時代だった。 ## 超大陸の分裂が環境を変えていく ジュラ紀の地球では、三畳紀まで形成されていた超大陸パンゲアの分裂が進行した。大陸が分かれていく過程では地殻が引き裂かれ、新しい海域が形成されていった。後の大西洋につながる海洋も、この大規模な大陸分裂の中で発達していく。 大陸の配置が変われば、単に地図の形が変わるだけではない。海流、大気循環、降水、海岸線の長さ、浅い海の広がりなど、生命を取り巻く条件そのものが変化する。 パンゲアがほぼ一つの巨大な陸塊だった時代には、大陸内部が海から遠くなり、乾燥しやすい地域が広がっていたと考えられている。分裂が進むにつれて海が大陸内部へ入り込み、海からの水蒸気を受けやすい地域も増えていった。 ただし、ジュラ紀全体が一様に湿潤だったわけではない。緯度や地形、時期によって環境は大きく異なる。重要なのは、大陸配置の変化によって地域ごとの差が拡大し、森林、乾燥地、河川周辺、湖沼、海岸など、多様な環境が並存する条件が形成されたことである。 こうした地理的な分断は、生物の分布にも影響した。かつて陸続きだった地域が海や地形によって隔てられれば、生物集団の交流も変化する。ジュラ紀から白亜紀にかけて進む大陸分裂は、のちに各地域で異なる生物相が発達していく背景の一つとなった。 ## 巨大植物食恐竜を支えた植生 ジュラ紀の陸上景観は、現代の森林とは大きく異なっていた。現在の陸上植生で重要な被子植物は、ジュラ紀にはまだ主要な植物群ではない。陸上には裸子植物、シダ類、トクサ類などが広がっていた。 とくに針葉樹類、ソテツ類、ベネチテス類などの裸子植物が各地に分布し、森林や低木植生を形成していた。地表近くにはシダ類などが生育し、湿った場所では別の植物群が繁茂したと考えられる。 この植物世界と深く結び付いていたのが、大型の植物食恐竜である。 ジュラ紀には、ディプロドクス類やブラキオサウルス類などを含む竜脚類が多様化した。長い首、小さな頭、巨大な胴体をもつこれらの恐竜には、低い位置の植物を広く食べるものから、比較的高い位置の葉を利用できたと考えられるものまで、さまざまな体型が存在した。 異なる高さや種類の植物を利用することができれば、巨大な植物食動物が同じ地域に複数種存在することも可能になる。実際の食性については歯の形態、頭骨、首の構造、植物化石などから推定されているが、種ごとの食べ分けを完全に復元できるわけではない。 それでも、ジュラ紀の巨大恐竜は植物の生産力から切り離して考えることはできない。広大な植生が存在し、そこから得られる植物資源が巨大な植物食動物を支え、それらを捕食する大型肉食恐竜を含む食物網につながっていた。 ## 巨大恐竜だけではなかった陸上世界 ジュラ紀というと巨大恐竜が目立つが、陸上生態系はそれだけで構成されていたわけではない。 植物を食べる恐竜には竜脚類以外にも複数の系統が存在し、それらを捕食する獣脚類も多様化していた。大型の獣脚類は食物網の上位に位置したが、小型獣脚類も存在し、昆虫や小型脊椎動物などを利用していた可能性がある。 さらに、恐竜と同時代にはワニ形類、カメ類、トカゲ類に近い爬虫類、両生類なども生活していた。哺乳類の系統もすでに存在しており、その多くは大型恐竜に比べれば小さかったが、生態的に無視できる存在ではなかった。 ジュラ紀の哺乳形類や初期哺乳類には、単純に「夜行性の小型昆虫食動物」だけでは説明できない多様性があったことが、化石研究から明らかになっている。木登り、掘削、水辺への適応などを示唆する形態をもつ種類も知られており、恐竜が優勢だった世界でも、小型動物には独自の生態的地位が存在した。 昆虫もまた陸上生態系の重要な構成員だった。植物を食べるもの、死骸や腐植を利用するもの、他の昆虫を捕食するものなどが存在し、植物と脊椎動物の間をつなぐ複雑な食物網を形成していた。 つまりジュラ紀の陸地は、「巨大恐竜だけが歩き回る世界」ではなく、大小さまざまな動物と植物が相互作用する生態系だった。 ## 空では飛翔という新しい世界が広がった ジュラ紀の空では翼竜が重要な飛翔脊椎動物だった。翼竜は恐竜とは別系統の爬虫類で、三畳紀にはすでに出現していたが、ジュラ紀にもさまざまな種類が存在した。 そしてジュラ紀後期には、鳥類の初期進化を考えるうえで重要な化石が現れる。代表的なのが始祖鳥である。 始祖鳥は羽毛や翼を持つ一方、歯や長い尾など、現生鳥類とは異なる特徴も備えていた。その位置付けや飛翔能力の詳細には研究上の議論があるものの、鳥類が獣脚類恐竜の一系統から進化したことを理解するうえで重要な化石である。 羽毛そのものは、飛翔のためだけに生まれたとは考えられていない。保温、体表の表示、抱卵など複数の機能を経た後、飛翔にも利用されるようになった可能性が高い。 ここには進化の重要な特徴が表れている。新しい構造が最初から現在の役割のために出現するとは限らない。既存の特徴が別の用途に利用され、生態的な可能性が広がることがある。 ## 海では恐竜とは別の爬虫類が繁栄した ジュラ紀の海には恐竜はほとんど進出していなかったが、大型爬虫類が存在しなかったわけではない。むしろ海では魚竜、首長竜、海生ワニ形類など、陸上恐竜とは別の系統が多様化していた。 魚竜には流線型の体をもつ種類があり、活発に泳ぐ捕食者として魚類や頭足類などを利用した。首長竜には長い首をもつものと、より大きな頭部をもつ系統が存在し、ジュラ紀からその後の海洋生態系で重要な捕食者となった。 アンモナイトなどの頭足類も繁栄し、多くの種類が海に生息していた。二枚貝、腕足動物、ウニなどの無脊椎動物も海底や浅海域を構成し、魚類や海生爬虫類へとつながる食物網を支えていた。 大陸分裂が進むと、新しい海岸線や浅海域が形成される。浅い海では光が届きやすく、生物生産が高くなる場所もあるため、大陸配置の変化は海洋生態系にも影響したと考えられる。 一方で、海洋の酸素状態は場所や時期によって変動した。一部の海域では低酸素環境が形成された証拠もあり、ジュラ紀の海が常に安定して豊かだったわけではない。 ## 生物が環境を利用し、環境が生物を選別する ジュラ紀の生命史は、「恐竜が巨大化した時代」という一言では捉えきれない。 その背景には、三畳紀末の大量絶滅、大陸分裂、気候や降水の変化、植生の広がり、新しい海域の形成といった地球規模の変化があった。生物はその環境の中で餌を利用し、捕食し、競争し、新しい生態的地位へ進出した。 同時に、生物も周囲の環境に影響を与えた。巨大な植物食恐竜による摂食や踏み荒らしは植生構造に影響した可能性があり、動物の死骸や排泄物は物質循環の一部となった。植物は炭素循環や土壌形成に関わり、陸上環境そのものを作り変える存在でもあった。 ただし、ジュラ紀の生物が植生や全球的な炭素循環にどれほど大きな影響を与えたのかを定量的に復元することは難しく、過度な断定はできない。 重要なのは、環境が生命を一方的に支配したのでも、生命だけが地球を変えたのでもないことである。地質活動、気候、植物、動物、海洋が相互に影響しながら、生態系は変化していった。 ## 白亜紀へ続く変化の途中にあったジュラ紀 ジュラ紀の終わりに、三畳紀末や白亜紀末に匹敵する全球的な大量絶滅が起こったわけではない。ジュラ紀から白亜紀への移行でも生物相の変化は起きたが、多くの系統はそのまま次の時代へ続いた。 その一方で、地球環境は止まっていなかった。大陸分裂はさらに進み、海洋の配置も変化していく。白亜紀には被子植物が急速に多様化し、昆虫や植物食動物との関係を含め、陸上生態系の構造もさらに変わっていく。 その意味でジュラ紀は、恐竜の繁栄が完成した静的な世界ではない。 三畳紀末の危機を越えた生態系が再編され、大型恐竜を中心とする新しい陸上世界が形成される一方、海では海生爬虫類やアンモナイトが繁栄し、空では翼竜に加えて鳥類へつながる系統が現れ始めた。そして大陸そのものも分裂を続けていた。 地球の形が変わり、生息環境が変わり、それに応じて生物の関係も変わる。ジュラ紀は、地球環境と生命の相互作用によって生態系が絶えず組み替えられていくことを、巨大なスケールで示す時代だった。