森林は大気の中で生き、大気を変える
森林は、大気から二酸化炭素を取り込み、酸素や水蒸気を放出する。こうした働きだけを見ると、森林は大気を一方的に変える存在のように見える。しかし地球生命史では、関係はもっと双方向的だった。大気中の二酸化炭素濃度、酸素濃度、気温、降水量は植物の成長や分布を左右し、広がった植物群は再び炭素循環、水循環、岩石の風化などを通じて大気と気候に影響を及ぼした。
したがって森林と大気の歴史は、「森林が増えたから気候が変わった」という単純な因果関係では説明できない。大陸配置、火山活動、海洋循環、太陽放射、土壌形成、生物進化などが同時に関与する地球システムの中で、森林と大気は相互に作用してきたと考える必要がある。
森林以前にも植物は大気と結び付いていた
現在のような森林が成立する以前、陸上にはすでに小型の植物が進出していた。古生代前半には、コケ植物に似た小型植物や初期の維管束植物が陸上に広がり始めたと考えられている。
植物が陸上に定着すると、大気中の二酸化炭素を光合成によって有機物へ取り込むだけでなく、岩石の風化にも影響を与えるようになった。根や微生物との相互作用、土壌中の有機酸などは鉱物の化学的風化を促進しうる。ケイ酸塩岩石の風化は、長い時間尺度では二酸化炭素を消費する炭素循環と結び付いている。
そのため、陸上植物の拡大が古生代の大気中二酸化炭素減少や寒冷化に寄与したという仮説がある。ただし、当時の二酸化炭素濃度や風化速度には大きな推定幅があり、大陸配置や火山からの二酸化炭素供給量も変化していた。植物だけを気候変化の原因とみなすことはできない。
重要なのは、陸上生命の進化によって、それまで主として地質学的過程だった大陸上の炭素循環に、生物活動が強く組み込まれるようになったことである。
高い森林がつくった新しい炭素循環
デボン紀には、木質化した茎、大型の葉、深い根を持つ植物が現れ、やがて樹木からなる森林が成立した。これは単に植物の背丈が高くなった出来事ではなかった。
深い根は岩石や堆積物の内部まで入り込み、土壌形成を変化させる。大量の落葉や枯死体は陸上に有機物を供給し、河川を通じて湖や海にも運ばれる。森林の成立によって、炭素が大気、植物、土壌、河川、海洋、堆積物の間を移動する経路そのものが変化した。
植物が固定した炭素の大部分は、呼吸や分解によって再び二酸化炭素として大気へ戻る。そのため、森林が存在するだけで大気中の二酸化炭素が長期的に減り続けるわけではない。
長期的な大気組成にとって重要なのは、有機炭素の一部が分解されずに堆積物へ埋没することや、森林が岩石風化を変えることである。このような作用が地質学的時間にわたって積み重なると、大気中の炭素量にも影響しうる。
石炭紀の森林と酸素
石炭紀には、赤道付近の湿潤な低地を中心に大規模な森林性生態系が成立した。そこで生産された植物遺体の一部は湿地に蓄積し、長い時間を経て石炭となった。
有機物が完全に分解されれば、光合成で放出された酸素は呼吸や分解によって再び消費される。しかし有機炭素が堆積物中に埋没すると、その分だけ酸素が大気中に残りやすくなる。このため、有機炭素の大規模な埋没は古生代後半の高い大気酸素濃度に寄与したと考えられている。
一方、「巨大な森林があったので酸素が増えた」とだけ説明するのは不十分である。酸素濃度は有機炭素だけでなく、硫黄循環、火山活動、風化、海洋での物質循環などにも左右される。さらに古い時代の酸素濃度は直接測定できず、地球化学モデルによる推定にも幅がある。
森林の存在と酸素濃度の上昇には関係があった可能性が高いが、その規模や各過程の寄与率には不確実性が残っている。
大気が森林を選別する
森林が大気を変える一方、大気の状態も植物に強い選択圧を与える。
二酸化炭素は光合成の材料であるため、その濃度の変化は植物の成長や水利用に影響する。しかし二酸化炭素が多ければすべての植物が単純に繁栄するわけではない。気温、降水、土壌の栄養条件、競争関係などが同時に作用するからである。
植物の葉にある気孔も、大気との関係を示す構造である。植物は気孔から二酸化炭素を取り込む一方、水蒸気を失う。二酸化炭素濃度、水分条件、気温などに応じて、気孔の密度や開閉の仕組みは植物の水収支と炭素獲得に影響する。
化石葉の気孔密度は、過去の大気中二酸化炭素濃度を推定する手掛かりとしても利用されている。ただし植物群ごとの生理的差異があり、気孔だけから正確な濃度を読み取れるわけではない。
森林は大気を記録する存在であると同時に、その環境の中で進化してきた存在でもある。
森林は水を大気へ戻す
森林と大気の相互作用は炭素だけではない。現在の森林では、樹木が根から吸収した水の多くを蒸散によって大気へ放出している。葉面からの蒸発も含めた蒸発散は、大気中の水蒸気量や地表付近のエネルギー収支に影響する。
大規模な森林では、蒸発散によって供給された水蒸気が雲や降水の形成に関与し、その雨が再び森林を維持するという循環が生じうる。とくに熱帯の大森林では、海から運ばれた水だけでなく、陸上で繰り返し蒸発散された水が降水に寄与している。
ただし、森林がどの程度まで地域降水を増減させるかは、風向、地形、海面水温、大気循環などにも左右される。「森林が雨を生み出す」という表現だけでは、実際の大気過程を単純化しすぎる。
森林と降水は相互依存的である。十分な降水が森林を支え、その森林が再び大気中の水循環を変えている。
森林の色と形も気候に影響する
植物は化学的な循環だけでなく、地表の物理的性質も変える。
森林は草原や裸地とは太陽光の反射率が異なる。一般に暗い森林は比較的多くの太陽エネルギーを吸収するため、森林化が必ずしも地表を冷やす方向だけに働くとは限らない。
とくに高緯度では、雪に覆われた開放地は多くの太陽光を反射するのに対し、樹木が雪面を覆うと反射率が低下する。この作用は森林による炭素吸収とは反対に、温暖化方向へ働く場合がある。
一方、森林の蒸発散は地表から潜熱としてエネルギーを運び、局地的な温度を下げることがある。雲量や大気循環への影響まで含めると、森林の気候作用は地域によって異なる。
つまり「森林は地球を冷やす」という一方向の理解は適切ではない。炭素固定、蒸発散、反射率、雲形成など複数の作用が重なり、その結果は場所と時間尺度によって変わる。
火災も森林と大気を結ぶ
森林の歴史では火災も重要である。植物が陸上に大量の可燃物を供給し、大気中に十分な酸素が存在すると、自然火災が起こりうる。
火災は植物体に蓄えられていた炭素を短時間で大気へ戻す。一方、燃焼後に残る炭化物の一部は分解されにくく、土壌や堆積物に長期間保存される場合がある。
さらに火災は森林の構造を変え、火に耐える樹皮や火災後に発芽しやすい性質など、植物の進化にも関係してきた。大気中酸素濃度が火災の起こりやすさに影響し、火災が植生を変え、その植生が炭素循環を変えるという相互作用が成立する。
ここでも原因と結果を一方向に並べることは難しい。生命、大気、火災は互いを条件付けながら変化してきた。
森林は地球システムの一部である
森林が大気へ及ぼす影響は、数時間から数億年まで異なる時間尺度にまたがっている。
葉の気孔は数分から数時間で開閉し、蒸散量を変える。季節によって森林全体の二酸化炭素吸収量も変化する。数十年から数百年では森林の成長や破壊が炭素蓄積量を変える。さらに数百万年以上では、有機炭素の埋没や岩石風化が大気組成の変化と結び付く。
この時間尺度の違いを無視すると、「森林が二酸化炭素を吸収する」という現在観察できる現象と、「森林の進化が古代の大気中二酸化炭素を減少させた」という地質学的推論を同じものとして扱ってしまう。
後者では、植物そのものだけでなく、炭素がどこへ移動し、どれだけ長く隔離されたのかを考えなければならない。
地球が森林をつくり、森林が地球を変えた
森林の成立は、陸上生態系の発達だけでなく、地球表層の物質循環を変えた出来事だった。植物は大気から炭素を取り込み、水を大気へ送り、土壌を形成し、岩石の風化や有機物の埋没に影響した。
同時に、その森林が成立できたのは、大気組成、気候、大陸配置、土壌、水循環などの条件が存在したからである。そして環境が変われば、繁栄する森林の種類や分布も変わった。
この関係には明確な始点も、一方向の因果関係もない。森林は地球環境によってつくられた生命システムでありながら、その活動によって次の環境条件を変える主体にもなった。
地球生命史における森林と大気は、原因と結果を交互に受け渡す二つの独立した存在ではない。炭素、水、酸素、岩石、生物を含む一つの地球システムの中で、互いの状態を変え続けてきたのである。