森林の誕生が地球を変えた理由

## 森林は「木が増えた」だけの出来事ではない 現在の陸地では、森林はごく当たり前の景観に見える。しかし地球生命史を長い時間尺度で見ると、高い植物が密集し、根を地下深くまで伸ばす森林は比較的新しい生態系である。 陸上植物そのものは森林より前から存在していた。初期の陸上植物は小型で、地表近くに広がるものが中心だったと考えられている。やがて維管束、丈夫な茎、葉、発達した根などを備えた植物が現れ、より高く成長し、広い面積を覆えるようになった。 この変化が重要なのは、森林が単に新しい植物群落をつくっただけではないからだ。根は岩石を砕き、土壌を変え、河川へ流れ込む物質を変化させた。植物体は大量の炭素を固定し、枯死した有機物は陸上や水中へ運ばれた。さらに立体的な森林そのものが、多数の動物や菌類に新しい生活空間を提供した。 森林の成立は、生物が地球表面を大規模に改変するようになった転換点の一つだった。 ## 森林が生まれるには、植物側の進化が必要だった 植物が陸へ進出しただけでは森林にはならない。森林を成立させるには、陸上で大型化するための複数の仕組みが必要だった。 まず重要だったのが、水や養分を体内で運ぶ維管束である。小さな植物なら体表付近で水分を得ることができるが、高く成長するほど地下から地上部へ水を運ぶ能力が重要になる。 さらに、植物体を支える組織の発達も必要だった。木質化した丈夫な組織を持つ植物は、自らの重さを支えながら高く成長できる。高さを得ることは、光をめぐる競争でも有利になりうるため、植物同士の競争そのものが森林の構造を複雑にしていった可能性がある。 地下では根系が発達した。初期の陸上植物にも地面に固定する構造はあったが、後に現れた大型植物では、より深く複雑な根が形成されるようになった。 これらの特徴は一度に完成したわけではない。異なる植物系統でさまざまな形質が発達し、その組み合わせによって、高い植物が密集する生態系が次第に成立していった。 ## 根が地球の岩石を変え始めた 森林が地球環境へ及ぼした影響のなかでも、とくに重要なのが根による岩石の風化である。 根は岩石の割れ目に入り込み、物理的に岩を崩す。また、植物や根の周囲で活動する微生物・菌類は化学的な環境を変え、鉱物の分解を促進する。こうして生物がほとんど存在しない地表とは異なる風化環境が形成される。 風化によって岩石からカルシウムやリンなどさまざまな元素が移動し、それらの一部は河川を通じて海へ運ばれる。したがって森林の拡大は、陸上だけの出来事ではなく、海洋の栄養塩循環にも影響した可能性がある。 また、岩石の化学風化は長期的な炭素循環とも関係している。大気中の二酸化炭素は雨水や土壌中の化学反応を通して風化過程に関与し、最終的には海洋で炭酸塩として固定される経路を持つ。 そのため植物の根による風化の強化が、大気中二酸化炭素の減少に寄与したとする考えがある。ただし、古生代の気候変化は植物だけで説明できるものではない。大陸配置、火山活動、海洋循環なども炭素循環に関与するため、「森林が生まれたから気候が変わった」という単純な一方向の因果関係として捉えるべきではない。 ## 植物は大気から炭素を取り込み、地下へ送った 森林の成立は、生物が扱う炭素の量も大きくした。 植物は光合成によって二酸化炭素から有機物をつくる。小型植物しか存在しない陸上世界と比べ、大型の植物が広範囲を覆う森林では、幹、枝、葉、根などに大量の有機炭素が蓄えられるようになる。 もちろん、植物が死ねばその炭素の多くは分解され、再び二酸化炭素として環境へ戻る。そのため森林が存在するだけで、大気中の炭素が永久に減少するわけではない。 重要なのは、一部の有機物が分解されきらずに地中へ埋没することである。 とくに後の石炭紀には、湿地性の森林が広く発達し、大量の植物遺体が堆積した。その一部は長い地質学的時間を経て石炭となった。ただし石炭形成の規模を説明する要因については、植物生産量、湿地環境、堆積条件、分解者の能力など複数の要因が関係しており、一つの理由だけで説明することは難しい。 それでも、陸上に巨大な植物バイオマスが形成されたことで、炭素が「大気―植物―土壌―堆積物」の間を移動する新しい巨大な流れが生まれたことは、森林以前との大きな違いだった。 ## 森林は海の環境まで変えた 森林の影響は陸上にとどまらなかった。 植物の根によって土壌形成と風化が進めば、河川を通じて海へ運ばれる土砂や栄養塩の量と種類も変化する。リンなどの栄養元素が海へ供給されれば、海洋の一次生産に影響する可能性がある。 一方で、栄養塩が大量に供給されれば、植物プランクトンなどの生産が増え、その有機物が分解される過程で海水中の酸素が消費されることもある。そのため陸上植生の発達と、沿岸域や海洋の低酸素化との関連が議論されている。 ただし、この関係も地域や時代によって異なる。海水準、大陸配置、気候、海洋循環などによって海の酸素状態は大きく変わるため、森林の拡大だけを海洋環境変化の原因とみなすことはできない。 重要なのは、陸上植物が十分に発達すると、陸の生態系の変化が河川を介して海の生態系へ波及するようになったことである。 地球上の生態系は、陸と海が独立して存在するのではなく、物質循環によって強く結び付くようになっていった。 ## 地表に「立体的な生態系」が現れた 森林が変えたのは地球化学だけではない。生物が暮らす空間そのものも大きく変化した。 森林のない陸地では、生物が利用できる場所の多くは地表付近に限られる。ところが高い植物が密集すると、地面、落ち葉層、根の周囲、幹、枝、葉など、高さと環境条件の異なる多数の空間が生まれる。 日なたと日陰、乾燥した場所と湿った場所、地上と地下といった小さな環境の違いも増える。 そこへ節足動物をはじめとするさまざまな陸上動物が進出し、植物を食べるもの、それらを捕食するもの、枯死した植物を利用するものなど、多様な生態的関係が形成されていった。 菌類や微生物も重要だった。植物の根と菌類の共生は栄養獲得を助け、枯死した植物の分解は栄養元素を再び生態系へ戻した。森林とは木だけの集合ではなく、植物、動物、菌類、微生物が相互作用する巨大な物質循環システムなのである。 この意味で森林の成立は、陸上生態系が平面的な世界から、より複雑な三次元構造を持つ世界へ移行した出来事でもあった。 ## 森林は環境を変え、その環境がさらに生命を変えた 森林の誕生を地球生命史の転換として見ると、「植物が進化した」という一方向の説明だけでは不十分である。 維管束、木質化、葉、根などの進化によって大型植物が広がる。森林が広がると、岩石風化、土壌形成、水循環、炭素循環、栄養塩循環が変わる。それによって大気や海洋の状態が変化し、新しい環境条件が生物に新たな選択圧を与える。 つまり、 **植物の進化 → 地球環境の変化 → 新しい生態系 → さらなる進化** という相互作用が生じた。 この循環こそ、森林の誕生が地球生命史で重要な理由である。 生命は与えられた環境に適応するだけではない。十分な規模に達した生命活動は、大気、岩石、土壌、河川、海洋を変え、その変化した地球が次の生命の歴史をつくる条件になる。 現在の森林もまた、その長い相互作用の延長にある。私たちが目にする一本の木は単なる陸上植物ではない。森林という生態系全体で見れば、それは岩石を削り、炭素を動かし、水を循環させ、数多くの生物の生活空間をつくる地球システムの一部なのである。