恐竜の登場の背景
## 恐竜は「突然現れた支配者」ではない
恐竜というと、巨大な肉食恐竜や長い首をもつ大型草食恐竜が繁栄した時代を思い浮かべやすい。しかし、最初期の恐竜はそのような圧倒的な存在ではなかった。
恐竜が現れたのは三畳紀である。その背景には、直前に起きた史上最大級の大量絶滅、その後の長い生態系の再編、乾燥した大陸環境、爬虫類系統の多様化など、複数の条件が重なっていた。
つまり恐竜の登場は、「優れた生物が突然出現して世界を支配した」という単純な物語ではない。地球環境と生態系が大きく組み替わるなかで生まれた多くの系統の一つが、のちに大きく多様化していった過程として理解する必要がある。
## 出発点はペルム紀末の大量絶滅だった
恐竜が登場する背景を考えるには、その少し前までさかのぼる必要がある。
ペルム紀末には、海と陸の双方で非常に大規模な絶滅が起きた。大規模な火山活動に伴う温暖化、海洋の酸素不足、海洋化学の変化などが複雑に関係したと考えられているが、それぞれの作用や因果関係の詳細については現在も研究が続いている。
重要なのは、この絶滅によってそれまでの生態系が大きく崩れたことである。
しかし、大量絶滅の直後に恐竜の時代が始まったわけではない。三畳紀前半の生態系は、絶滅によって生じた空白をさまざまな生物が埋めていく回復期だった。
生き残った系統が増え、新しい系統が現れ、それらが競争しながら新たな食物網を形成していった。この再編のなかから、後にワニ類へつながる系統や恐竜へつながる系統を含む主竜類が多様化していく。
大量絶滅は恐竜を生み出すために起きたものではない。結果として、それ以前とは異なる生態系が形成され、新しい系統が拡大できる条件の一部が生じたのである。
## パンゲアという巨大大陸の世界
三畳紀には、多くの陸地が超大陸パンゲアとしてまとまっていた。
巨大な大陸の内部では海からの湿った空気が届きにくく、広い地域で乾燥した環境が形成されたと考えられている。ただしパンゲア全体が一様な砂漠だったわけではなく、緯度、季節、地形によって気候には大きな違いがあった。
こうした大陸環境のなかで、植物群や植食動物、それを捕食する動物の構成も変化していった。
三畳紀の陸上には、現在の哺乳類につながる単弓類の仲間も残っていた。一方、主竜類の仲間も多様化し、陸上ではさまざまな体型や生活様式をもつグループが共存した。
この時点では、恐竜だけが特別に成功していたわけではない。
## 主竜類の多様化から恐竜が生まれた
恐竜は爬虫類のなかでも主竜類と呼ばれる大きな系統に属する。
主竜類には恐竜につながる側だけでなく、現在のワニにつながる系統も含まれる。三畳紀には、現在では絶滅している多様な主竜類が陸上生態系で重要な位置を占めていた。
恐竜へ続く系統も、この主竜類の多様化の一部として現れた。
最初期の恐竜や恐竜に近縁な動物は比較的小型で、二足歩行するものが多かったと考えられている。後世の巨大な恐竜とはかなり異なる姿だった。
恐竜の祖先的な系統では、脚が胴体の横ではなく比較的体の下に位置する姿勢が発達していた。この姿勢は効率的な移動に関係した可能性がある。
しかし、こうした身体的特徴だけを恐竜の成功の決定的原因とみなすのは難しい。呼吸器系、成長速度、繁殖、運動能力などさまざまな特徴が議論されているが、どの要因がどの程度重要だったのかは単純には決められない。
## 初期の恐竜は生態系の脇役だった
恐竜が登場した後も、すぐに陸上生態系を独占したわけではない。
三畳紀中頃から後半の陸上には、大型の植食動物や捕食者として恐竜以外の主竜類や単弓類の仲間が存在していた。
初期の恐竜は、その複雑な生態系の一員だった。
この点は恐竜の進化を理解するうえで重要である。
後世の成功から過去を見ると、「恐竜は最初から他の動物より優れていた」と考えたくなる。しかし進化には未来の目標があるわけではない。ある環境で有利だった特徴も、環境が変われば意味を失うことがある。
恐竜の初期進化も、競争、環境変化、偶然の絶滅、生態的地位の変化などが組み合わさった歴史だった。
## 気候変動も生態系を揺さぶった
三畳紀の環境は安定していたわけではない。
三畳紀後半には、一般に「カーニアン多雨事変」と呼ばれる気候・環境変動が起きたことが知られている。地域差は大きいものの、降水パターンや炭素循環の変化などが起き、生態系にも大きな変化が生じたと考えられている。
この時期の環境変化と恐竜の多様化との関連も研究されている。
一部の研究では、この生態系の再編後に恐竜が分布や多様性を拡大した可能性が示されている。ただし、「この気候変動が恐竜繁栄の原因だった」と一つの出来事だけに還元することはできない。
恐竜の拡大は地域によって時期が異なり、複数の環境変化と生物間相互作用が関係していたと考えるほうが適切である。
## 三畳紀末の絶滅がさらに状況を変えた
恐竜の歴史でもう一つ大きな転換点となったのが、三畳紀末の大量絶滅である。
この時期にはパンゲアの分裂に関係する大規模な火山活動が起こり、大気中の二酸化炭素濃度や気候、海洋環境が大きく変化したと考えられている。
その過程で、陸上と海洋の多くの生物が絶滅した。
陸上では、三畳紀まで繁栄していた恐竜以外の大型主竜類の一部が姿を消した。一方、恐竜の系統は生き残った。
ここで再び、生態的地位の構成が変わった。
それまで恐竜と競合していた動物の一部が失われたことで、ジュラ紀初頭には恐竜がより広い生態的地位を占めるようになっていく。
ただし、恐竜がなぜこの絶滅を乗り越えられたのかについては完全には解明されていない。体サイズ、生理、生息域、成長や繁殖など複数の要因が考えられているが、単一の特徴だけで説明することは難しい。
## 「登場」と「繁栄」は別の出来事だった
恐竜の歴史では、「最初の恐竜が現れた時期」と「恐竜が陸上生態系の主要な大型動物になった時期」を分けて考える必要がある。
恐竜は三畳紀に登場したが、その時点では多くの競争相手がいた。
その後、気候変動や生態系の再編を経験し、三畳紀末の大量絶滅を越えた後、ジュラ紀に入ると状況が大きく変わる。
大型の竜脚形類、さまざまな獣脚類、装甲をもつ恐竜などが次第に多様化し、恐竜は陸上の多くの大型動物の生態的地位を占めるようになった。
つまり「恐竜時代」は恐竜の誕生と同時に始まったのではない。
恐竜が登場してから陸上生態系の中心的な存在となるまでには、長い時間と複数の環境変動が必要だったのである。
## 地球環境の変化が恐竜の進化の舞台を作った
恐竜の登場を地球生命史のなかで見ると、生命の進化が生物自身の特徴だけで決まるものではないことが分かる。
ペルム紀末の大量絶滅による生態系の崩壊。三畳紀における生態系の回復。超大陸パンゲアの環境。主竜類の多様化。途中で起きた気候変動。そして三畳紀末の再びの大量絶滅。
これらが重なった結果として、恐竜を取り巻く生態的条件は何度も変化した。
恐竜はその変化のなかで生まれ、生き残り、多様化した。
だから恐竜の登場は、単に「新しい動物が進化した」という出来事ではない。地球環境の変動によって生態系が組み替えられ、そのなかで生物の系統が入れ替わっていくという、地球生命史を特徴づける大きなパターンの一例なのである。