共進化とは何か

## 共進化は「一緒に進歩すること」ではない 共進化とは、異なる生物の系統が互いに選択圧を与え、その影響を受けながら進化する現象を指す。典型的には、植物と送粉者、捕食者と獲物、宿主と寄生者などの関係で見られる。 ここで重要なのは、「二つの生物が仲良く協力しながら、より優れた存在へ進歩する」という意味ではないことである。進化にはあらかじめ定められた目的も、到達すべき頂点もない。ある生物に生じた遺伝的な変異のうち、その時代、その環境、その相手との関係の中で繁殖に有利だったものが集団内に広がっていく。その変化が別の生物の生存や繁殖条件を変えれば、今度は相手側にも新たな選択圧が生じる。 このような相互作用が世代を越えて繰り返されると、一方の進化がもう一方の進化を促し、さらにその変化が最初の側へ跳ね返るという連鎖が起こりうる。これが共進化の基本的な考え方である。 ## 花と昆虫はなぜ深く結び付いたのか 共進化を理解する代表例が、花をつける植物と送粉動物の関係である。 被子植物の花には、色、香り、蜜、花の形など、動物を引き付けるさまざまな特徴がある。一方、昆虫や鳥などには、花から蜜や花粉を利用するための口器、くちばし、行動などが見られる。 ただし、現在の巧妙な関係を見て「植物は受粉してもらうために花を作った」と考えると、進化の因果関係を逆向きに理解することになる。 最初から現在の花の構造が設計されていたわけではない。植物集団に花の形や色などの違いがあり、その一部が動物による花粉の移動を増やしたなら、その特徴を持つ植物の繁殖成功が高くなる可能性がある。反対に、昆虫側でも、利用可能な花から効率よく餌を得られる特徴が繁殖上有利になる場合がある。 こうして植物側の変化が昆虫の選択環境を変え、昆虫側の変化も植物の選択環境を変える。 長い時間尺度では、この相互作用が特定の送粉者と植物の強い結び付きを生む場合がある。ただし、すべての花と送粉者が一対一で共進化しているわけではない。一種類の植物を多数の昆虫が訪れたり、一種類の昆虫が多数の植物を利用したりする関係も多く、共進化は複雑な生態系のネットワークの中で起こっている。 ## 捕食者と獲物にも共進化が起こる 共進化は協力関係だけで起こるものではない。むしろ、互いの利益が対立する関係でも強い進化的影響が生じる。 捕食者にとって、獲物を発見し、捕らえる能力は生存と繁殖に関係する。一方、獲物にとっては、捕食者を発見し、逃げ、身を守る能力が重要になる。 仮に捕食者集団の中で獲物を効率よく捕らえられる特徴が広がれば、獲物側では、それを回避できる特徴を持つ個体が相対的に生き残りやすくなる可能性がある。すると獲物の変化によって、今度は捕食者にかかる選択圧も変わる。 毒と毒への抵抗性、攻撃能力と防御能力、発見能力と擬態・隠蔽などにも、こうした相互作用が関与する場合がある。 しかし、これを「双方が際限なく強くなる競争」と単純化することはできない。強い武器や防御には、エネルギー消費や成長速度などの代償が伴うことがある。環境が変化したり、別の餌や捕食者が加わったりすれば、何が有利かも変わる。 進化は能力の最大化ではなく、その時々の条件の中での繁殖成功の差によって進む。 ## 寄生者と宿主がつくる終わりのない関係 宿主と寄生者の関係も、共進化を考えるうえで重要である。 寄生者には宿主へ侵入し、増殖し、免疫反応などを回避できる特徴が有利になる場合がある。宿主側では反対に、感染を防ぎ、寄生者を排除する能力が有利になりうる。 宿主側で特定の防御機構が広がれば、それを突破できる寄生者が有利になる可能性がある。突破能力を持つ寄生者が増えれば、さらに異なる防御機構を持つ宿主が有利になることもある。 このように、環境そのものが大きく変わらなくても、相手が進化することで自分の適応条件が変わり続ける。 こうした関係を説明するときに使われる考え方の一つが「赤の女王仮説」である。生物は一定の状態に到達して進化を終えるのではなく、周囲の生物も進化するため、相対的な適応度を維持するだけでも変化し続ける必要が生じる場合がある、という考え方である。 ただし、すべての宿主と寄生者の進化が単純な軍拡競争になるわけではない。寄生者が宿主を急速に死亡させることが常に有利とも限らず、感染経路や宿主密度などによって有利な性質は変わる。 ## 共進化は一対一とは限らない 共進化という言葉から、二種類の生物が向かい合って進化していく姿を想像しやすい。しかし実際の生態系では、一つの種が多数の種と関係している。 植物は複数の送粉者だけでなく、植物を食べる昆虫、種子を運ぶ動物、病原体、菌類、競争する植物などからも影響を受ける。昆虫側もまた、一種類の植物だけではなく、捕食者や寄生者、他の餌資源などの影響下にある。 したがって、ある形質が一つの相手との関係だけで進化したと断定することは難しい場合がある。 複数種の相互作用による進化を考える「地理的モザイク」という見方もある。同じ二種が広い地域に分布していても、その関係の強さは場所によって異なりうる。ある地域では強い相互選択が起こり、別の地域ではほとんど影響し合っていないこともある。さらに個体の移動によって遺伝子が地域間を移動するため、共進化は空間的にも不均一な過程となる。 ## 共進化は生命史をどう変えたのか 共進化の重要性は、個々の種の特徴を説明するだけではない。生物同士の相互作用そのものが、新しい生態的地位や多様化の機会を生み出してきた可能性がある。 陸上植物が多様化すれば、それを食べる動物に新しい資源が生まれる。植物を利用する動物が多様化すると、それを捕食する生物にも新しい生態的機会が生じる。花と送粉者、果実と種子散布者、草食動物と植物、防御する獲物と捕食者などの相互作用が積み重なることで、生態系の構造そのものが変化していく。 ただし、生物の大規模な多様化を共進化だけで説明することはできない。 大陸配置、気候、海水準、大気組成、火山活動、大量絶滅なども、生物の生存環境を大きく変えてきた。ある生物群の多様化と別の生物群の多様化が同じ時期に見られたとしても、それだけで直接的な共進化が証明されたことにはならない。両者が共通の環境変化に反応した可能性も検討する必要がある。 化石記録では、生物間の相互作用そのものが保存されにくいため、過去の共進化を確かめることは特に難しい。形態の変化、食痕、消化管内容物、分子系統解析など、複数の証拠を組み合わせて検討する必要がある。 ## 生物は環境であると同時に、他の生物の環境でもある 生命の進化を考えるとき、環境という言葉から気温、海、酸素濃度、地形などを思い浮かべやすい。しかし生物にとって、他の生物もまた重要な環境である。 植物が現れれば、それを食べる生物の環境が変わる。新しい捕食者が現れれば、獲物の環境が変わる。病原体が進化すれば宿主の環境が変わり、宿主が防御を進化させれば病原体の環境も変わる。 つまり生命史では、生物は既存の環境に一方的に適応してきただけではない。生物自身が周囲の生物にとっての環境を変え、その変化した環境が再び進化へ作用してきた。 共進化とは、生命があらかじめ決められた方向へ協力して進歩する仕組みではない。異なる系統が互いの生存条件を変え続けることで、進化の方向そのものが変化していく過程である。 地球生命史を形づくってきたのは、孤立した系統がそれぞれ頂点を目指した歴史ではない。変化する地球環境の中で、多数の生物が食べ、食べられ、寄生し、防御し、利用し合い、ときには協力することで、互いの選択環境を絶えず作り替えてきた歴史なのである。