新生代とはどんな時代か

## 大量絶滅のあとに始まった新しい生態系 新生代は、約6600万年前の白亜紀末の大量絶滅から現在まで続く地質時代である。一般には「哺乳類の時代」と表現されることが多い。しかし地球生命史という視点から見ると、新生代を単に恐竜の時代から哺乳類の時代へ交代した期間とみなすだけでは、その特徴を十分に捉えられない。 新生代の始まりには、白亜紀末の大量絶滅がある。小惑星衝突を主要因とする急激な環境変化によって、鳥類を除く恐竜をはじめ、多くの陸上・海洋生物が絶滅した。生物が一様に消えたわけではなく、系統や生態によって生存率には大きな違いがあった。 その結果として重要なのは、それまで長期間維持されていた生態系の構造が崩れ、多数の生態的地位が空いたことである。大量絶滅が新しい生物を生み出す「ため」に起こったわけではない。しかし、生き残った系統にとっては、競争相手や捕食者が減少した環境のなかで、それまで利用されていなかった資源や生活様式へ進出する機会が増えた。 哺乳類はその代表例である。哺乳類そのものは新生代に突然現れたのではなく、中生代にはすでに存在していた。新生代になって変化したのは、その一部の系統が急速に多様化し、大型草食動物、大型捕食者、樹上生活者、水生動物、飛翔する動物など、多様な生態的位置を占めるようになったことである。 同様に、鳥類も白亜紀末を生き残った恐竜の一系統として新生代に大きく多様化した。したがって新生代は、「恐竜が消えて哺乳類だけが繁栄した時代」ではなく、大量絶滅を境として陸上と海洋の生態系が再編成され、現在につながる多くの生物群が新しい組み合わせをつくっていった時代と考えたほうがよい。 ## 温暖な地球から寒冷な地球へ 新生代のもう一つの大きな特徴は、気候が長期的に大きく変化したことである。 新生代初期の地球は、現在より全体として温暖だった。高緯度地域にも森林が広がり、極域と低緯度地域の温度差も現在とは異なっていた。とくに始新世初期には非常に温暖な状態が形成され、そのなかで森林性の生物を含むさまざまな系統が広い範囲へ分布した。 ただし、新生代全体が温暖だったわけではない。その後、地球は数千万年という時間をかけて長期的な寒冷化へ向かった。 この変化には、大気中の二酸化炭素濃度の低下、大陸配置の変化、海洋循環の再編成などが関係していたと考えられている。どの要因がどの時期にどの程度重要だったかについては研究が続いており、単一の原因によって新生代の寒冷化全体を説明することは難しい。 やがて南極大陸には大規模な氷床が形成されるようになった。さらに新生代後半には北半球でも氷床が拡大し、地球は大きな氷床を持つ現在型の気候システムへ移行していった。 この寒冷化は、生物の生活場所そのものを変えた。気温や降水量が変化すれば、森林、草原、砂漠、ツンドラなどの分布も変わる。それに伴って植物を利用する草食動物の分布が変化し、それを捕食する動物にも影響が及ぶ。 新生代の生命史は、こうした気候と生態系の変化を切り離して理解することができない。 ## 森林だけではない陸上世界へ 新生代初期の温暖な世界では、広い範囲に森林が存在した。しかし気候が寒冷化・乾燥化していくにつれ、一部の地域ではより開けた環境が拡大するようになった。 そのなかで重要になった植物群の一つがイネ科植物である。イネ科植物は新生代以前から存在していたが、新生代には草原生態系が各地で発達していった。 草原の拡大は、単に植物相が変化しただけの出来事ではない。森林では枝葉を食べていた動物と、地表近くの草を大量に食べる動物とでは、必要とされる身体構造や行動が異なる。 草には歯を摩耗させる要因が多く、開けた土地では捕食者を避けながら長い距離を移動する能力も重要になる。新生代には、ウマ類、反芻動物を含むさまざまな草食哺乳類で、歯や四肢などに草原生活と関係する特徴が発達した。 ただし、「草原ができたから動物がその環境に合わせて進化した」という一方向の説明だけでは不十分である。植物、草食動物、捕食者、土壌、火災、降水量、大気中の二酸化炭素濃度などは相互に影響する。 大型草食動物が植物を食べれば植生構造が変わり、踏みつけや排泄も土壌や栄養循環に影響する。火災に強い植物が広がれば、火災の起こり方そのものが変化する可能性もある。 地球環境が生命を変えただけではなく、生物活動もまた環境形成の一部となっていた。 ## 海でも生態系の再編成が続いた 新生代の変化は陸上だけで起こったものではない。 白亜紀末の大量絶滅では、海洋のプランクトン、アンモナイト、大型爬虫類などにも大きな影響が及んだ。その後、海洋生態系も再構築されていった。 現在の海で重要な位置を占める魚類や海生哺乳類の多くの系統が、新生代に多様化した。陸上哺乳類の一部は再び海へ進出し、クジラ類などへと進化した。アザラシ類や海牛類なども、それぞれ異なる系統から水中生活へ適応している。 これは進化が一方向に進むものではないことをよく示している。脊椎動物の遠い祖先が海から陸へ進出したからといって、その後の進化が常に陸上生活へ向かうわけではない。環境条件と利用可能な生態的地位によっては、陸上生物が再び水中へ進出することもある。 海洋環境そのものも一定ではなかった。大陸の移動によって海峡が開閉すると、海流が変化する。海流は熱を運ぶだけでなく、栄養塩や酸素の分布にも関係するため、海洋生態系にも影響を与える。 新生代には大陸配置が現在に近づいていき、その過程で海洋循環も変化した。こうした地球規模の変化は、気候と海洋生物の進化を結び付ける重要な背景となった。 ## 大陸移動が生物の分布を組み替えた 新生代には、現在見られる大陸配置が次第に形成されていった。 インド亜大陸はユーラシア大陸へ衝突し、ヒマラヤ山脈やチベット高原の形成につながった。こうした大規模な造山運動は地域の気候だけでなく、岩石の風化や炭素循環を通じて長期的な地球環境にも影響した可能性がある。ただし、造山運動と全球的な気候変化の因果関係には複数の過程が関係しており、単純な一対一の対応として扱うことはできない。 一方、大陸の接続や分断は、生物の移動経路も変化させた。 長期間孤立した大陸では、独自の動物相が進化することがある。その後に陸橋などによって別の大陸と接続すると、それまで別々に進化していた生物群が同じ地域へ進出する。 こうした生物地理的な出来事では、新しく侵入してきた生物が必ず在来生物を一方的に駆逐するわけではない。競争、捕食、環境変化、病原体、偶然など多くの要因が重なり、絶滅する系統もあれば共存する系統もある。 新生代の生物分布は、進化だけでなく、大陸そのものが動いていたという地球史的背景によって形成されてきた。 ## 氷期と間氷期が繰り返される世界 新生代後半になると、長期的寒冷化のうえに、さらに短い時間スケールの気候変動が重なるようになる。 第四紀には氷期と間氷期が繰り返され、大陸氷床が拡大・縮小した。氷床が成長すると大量の水が陸上に固定され、海面が低下する。氷床が縮小すると海面は上昇する。 この変動によって、海岸線や陸橋の位置は何度も変化した。ある時期には陸続きになった地域が、別の時期には海によって隔てられる。森林や草原の分布も移動し、生物集団は分断と再接触を繰り返した。 そのため氷期サイクルは、生物に単に「寒さへの適応」を求めただけではない。分布域の移動、個体群の縮小、局所絶滅、再拡大、集団間の隔離などを通じて、生物の進化や現在の遺伝的構造にも影響した。 現生種の分布を理解するときにも、現在の気温や植生だけを見るのではなく、過去の気候変動によって生息域が何度も変化してきたことを考える必要がある。 ## 人類も新生代の環境変化のなかから現れた 人類の系統が現れたのも新生代である。 霊長類は新生代初期から多様化し、その一部から後に類人猿やヒトの系統が分岐した。人類の進化は、新生代後半に起こった気候や植生の変化と無関係ではないと考えられている。 しかし、「森林が減ったため人類が二足歩行になった」といった単純な一原因モデルには注意が必要である。初期人類が暮らした環境は一様な草原ではなく、森林、疎林、草地などが入り混じる複雑な景観だったことが示されている。 二足歩行、食性、道具使用、大きな脳、社会行動なども、それぞれ異なる時期に変化しており、人類進化を一本の直線的な進歩として描くことはできない。 人類もまた、新生代に多様化した哺乳類の一系統であり、変動する環境のなかで分岐と絶滅を繰り返してきた生命史の一部である。 ## 新生代は「現在ができあがるまでの時代」ではない 新生代を眺めると、現在の地球につながる特徴が次々に形成されている。現在に近い大陸配置、大規模な極域氷床、草原生態系、現生哺乳類や鳥類の主要な系統、そして人類も新生代の歴史のなかに現れた。 そのため、新生代を「現在の世界が完成していく時代」と表現したくなる。しかし進化には、現在の状態へ向かう予定された道筋があったわけではない。 大量絶滅、大陸移動、火山活動、炭素循環、海洋循環、気候変動、生物同士の競争や捕食など、多数の過程が重なった結果として、それぞれの時点の生態系が成立してきた。 そして現在も新生代は終わっていない。 私たちが暮らしている地球も、数千万年前の地球と同じように、気候、大気、海洋、生物圏が互いに影響し合う動的なシステムである。新生代を理解することは、過去の哺乳類や人類の歴史を知るだけではなく、現在の生態系が長い環境変動の積み重ねによって成立していることを理解することでもある。