ビッグファイブを比べる
## 「五つの特別な絶滅」と単純化しない
地球生命史で「ビッグファイブ」と呼ばれるのは、顕生代の化石記録から認識されてきた五つの大規模な絶滅事件である。古い順に、オルドビス紀末、後期デボン紀、ペルム紀末、三畳紀末、白亜紀末の大量絶滅を指す。ただし、これは地球史に起きた絶滅を大きい順に機械的に五つ選んだ分類ではない。もともとは海洋生物の化石記録にみられる高い絶滅率を統計的に調べるなかで定着した呼び方であり、近年の研究では、それぞれの規模や継続時間、他の絶滅事件との境界についても再検討が続いている。
五つを比べるときに重要なのは、「何割の種が消えたか」だけではない。どの環境が破壊され、どの生物群が強く影響を受け、危機がどれほど続き、そして生き残った系統がその後どのような生態系をつくったのかを見る必要がある。大量絶滅は生命史を次の段階へ進めるために起きるわけではない。絶滅には目的も計画もなく、その後の多様化もあらかじめ決められた結果ではない。
## オルドビス紀末――海の広がりが縮んだ危機
約4億4400万年前のオルドビス紀末には、当時の生命の中心だった海洋生態系が大きな打撃を受けた。腕足類、三葉虫、コケムシ、筆石など多くの海洋生物が影響を受け、絶滅は短い一回の事件ではなく、少なくとも二つの主要な局面をもっていたと考えられている。
この時期にはゴンドワナ大陸で大規模な氷床が形成され、寒冷化と海面低下が起きた。海面が下がれば、大陸棚に広がっていた浅い海が縮小する。当時の海洋生物の多くにとって、それは広大な生息場所そのものを失うことを意味した。その後、氷床の縮小と温暖化が進んだ局面でも環境は再び大きく変化したと考えられている。
したがって、オルドビス紀末絶滅は「寒くなったから絶滅した」という一行では捉えにくい。気温、氷床、海面、生息域、海洋環境が連動して変化したことが重要である。
## 後期デボン紀――長く続いた複合的な危機
後期デボン紀の大量絶滅は、ビッグファイブのなかでも特に「一瞬の破局」というイメージが当てはまりにくい。約3億7000万年前前後からデボン紀末にかけて複数の絶滅局面があり、海洋生態系は長い時間をかけて繰り返し打撃を受けた。サンゴ礁を構成していた生物などが大きく減少し、海洋の生態系構造にも変化が生じた。
原因については、海洋の酸素不足、気候変化、海面変動、火山活動、陸上植物の拡大に伴う物質循環の変化など複数の要因が研究されている。どの要因がどの絶滅局面で最も重要だったかについては、なお議論がある。したがって、後期デボン紀の危機を単一の原因に還元するのは適切ではない。
この事件は、大量絶滅が必ずしも「ある日突然起こる catastrophe」ではないことを示している。環境悪化が長期化し、生態系が何度も再編されるタイプの大量絶滅も存在するのである。
## ペルム紀末――最も深刻だった生態系の崩壊
約2億5200万年前のペルム紀末大量絶滅は、顕生代の大量絶滅のなかでも特に深刻なものとして知られている。海では三葉虫が完全に姿を消し、多くの腕足類、サンゴ類、ウミユリ類などが大きな打撃を受けた。陸上生態系も強く影響された。
この絶滅とほぼ同時期には、現在のシベリアに大量の溶岩を噴出した巨大火成活動が起きていた。大量の火山性ガスが大気や海洋へ影響し、急激な温暖化、海洋の酸素不足、酸性化などが相互に関係して生態系へ強い負荷を与えたという説明が有力である。ただし、それぞれの作用の大きさや時間的な順序については研究が続いている。
さらに重要なのは、絶滅が終わればすぐに豊かな生態系が戻ったわけではないことである。大量絶滅後には種数が増え始めても、複雑な食物網や安定した群集が再形成されるまで長い時間が必要になる場合がある。絶滅後の「回復」は、単なる種数の回復と同じではない。
## 三畳紀末――恐竜が「選ばれた」のではない
約2億100万年前の三畳紀末にも、海洋生物と陸上脊椎動物の双方で大きな絶滅が起きた。この事件も完全に一瞬の出来事とみなすより、三畳紀後半から境界付近にかけて複数の生物群が失われた過程として考える必要がある。
この時期には超大陸パンゲアの分裂に関連した大規模な火成活動が起こり、大気中の二酸化炭素増加、温暖化、海洋環境の変化などが絶滅に関係したと考えられている。
三畳紀には恐竜以外にも多様な大型陸上脊椎動物が存在していたが、その一部が絶滅したのち、ジュラ紀には恐竜が主要な大型陸上動物として大きく多様化した。しかし、「恐竜を繁栄させるために競争相手が絶滅した」と考えてはいけない。絶滅によって既存の生態的地位を占めていた生物が失われ、生き残った複数の系統に利用可能な資源や生活様式が生じた。そのなかで恐竜の一部の系統が結果として大きく多様化したのである。
## 白亜紀末――よく知られた衝突と、その後
約6600万年前の白亜紀末大量絶滅は、ビッグファイブのなかで原因を示す証拠が特に明瞭な事件である。現在のメキシコ・ユカタン半島付近への巨大天体の衝突が起こり、大気中へ放出された物質による急激な環境変化が大量絶滅の主要因になったと考えられている。同時期のデカントラップ火山活動が絶滅前後の環境にどの程度影響したのかについては研究が続いている。
この事件では非鳥類型恐竜が絶滅した一方、鳥類につながる恐竜の系統は生き残った。海洋でも多くの生物群が消滅・縮小し、生態系は大きく再編された。新生代には哺乳類や鳥類をはじめとする生き残った系統の多様化が進んだ。
ここでも、「恐竜が絶滅したので哺乳類の時代が始まった」という一本道の物語には注意が必要である。哺乳類は白亜紀末以前からすでに存在し、多様化もしていた。大量絶滅によって生態系の構成が変わったことで、その後の哺乳類の一部には新しい生活様式へ進出する機会が広がったのである。
## 五つの絶滅は、原因も速度も同じではない
ビッグファイブを並べると、「大量絶滅」という同じ名前の下にかなり異なる事件が含まれていることが分かる。オルドビス紀末では氷床形成と海面変動、後期デボン紀では長期にわたる複数の環境変化、ペルム紀末と三畳紀末では巨大火成活動に伴う地球環境の変化、白亜紀末では巨大天体衝突が重要だった。
時間幅も異なる。地質学的に非常に急速な事件もあれば、何度もの危機が長期間続いたものもある。影響を受けた生物も同じではない。大量絶滅では生物が無作為に同じ確率で消えるとは限らず、生息環境、体の構造、生活史、分布範囲などによって生存率に差が生じる。そのため絶滅後には、単に生物の数が減るだけでなく、生態系を構成する系統の組み合わせそのものが変わる。
## 「空席」ができても、次の勝者は決まっていない
大量絶滅後の生命史を理解する鍵の一つが、生態的地位の空白である。捕食者、草食者、濾過食者、サンゴ礁をつくる生物などが失われれば、それまで利用されていた資源や環境の一部が使われなくなる。生き残った系統は、そうした環境へ進出し、新しい形態や生活様式へ多様化する可能性をもつ。
しかし、生態的地位が空いたからといって、それを埋める生物が最初から決まっているわけではない。大量絶滅を生き延びるかどうか自体に偶然性があり、生き残った系統がもっていた形質、地理的分布、その後の気候や大陸配置、生物同士の関係によって展開は変わる。大量絶滅後の進化は、失われた世界をそのまま再建する過程でもない。大量絶滅は進化の「リセットボタン」というより、既存の生態系を大幅に削り、その後の進化が出発する条件を変えてしまう事件と考えるほうが近い。
## 大量絶滅がつくるのは「進歩」ではなく、別の生命史
ビッグファイブのたびに多くの系統が失われ、その後には新しい系統の多様化がみられた。しかし、そこから「大量絶滅が進化を促進するために必要だった」と結論づけることはできない。
絶滅した系統には、その後二度と現れなかった独自の形態や生態が数多く存在した。一方、生き残った系統には、それまでとは異なる環境のなかで多様化する機会が生じた。その結果として、ペルム紀末後の中生代型生態系、三畳紀末後の恐竜の繁栄、白亜紀末後の哺乳類や鳥類の多様化などが起きたのである。生態系の大規模な破壊と、その後の多様化は連続した歴史ではあるが、前者が後者を目的として起こったわけではない。
ビッグファイブを比べる意味は、「どの絶滅が最大だったか」を決めることだけではない。異なる原因と時間幅をもつ環境危機が、生物を選択的に失わせ、そのたびに地球上の生態系の構成を変えてきたことにある。現在の生命は大量絶滅を乗り越えた「完成形」ではなく、無数にあり得た生命史のうち、生き残った系統から続いてきた一つの結果なのである。